ミトコンドリア機能低下と慢性疲労の深い関係
「十分に寝ているはずなのに、朝から体が重い…」 「ちょっと動いただけで、すぐに疲れてしまう…」 「やる気はあるのに、体がついていかない…」
このような慢性的な疲労に悩まされていませんか?
もしあなたが病院で検査を受けても「特に異常はありません」と言われ、それでも日々の疲労感が消えないのであれば、それは体の中の「エネルギー工場」に問題が起きているサインかもしれません。
体のエネルギー工場「ミトコンドリア」とは
私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。そして、その一つひとつの細胞の中に「ミトコンドリア」という小さな器官が存在しています。
ミトコンドリアは、食べ物から得た栄養素を使って「ATP(アデノシン三リン酸)」というエネルギー物質を作り出す、いわば「体のエネルギー工場」です。
私たちが息をする、心臓を動かす、考える、歩く、すべての活動にはエネルギーが必要です。そのエネルギーを作っているのが、このミトコンドリアなのです。

ミトコンドリアが機能低下すると何が起こるのか?
ミトコンドリアの働きが低下すると、体全体のエネルギー産生能力が落ちてしまいます。
たとえるなら、工場の機械が故障して、製品の生産量が大幅に減ってしまった状態です。必要なエネルギーが作られなくなると、体にはさまざまな症状が現れます。
ミトコンドリア機能低下で現れる症状
・慢性的な疲労感、倦怠感 ・朝起きられない、起きた瞬間から疲れている ・集中力の低下、頭がぼーっとする(ブレインフォグ) ・筋力の低下、体を動かすのがつらい ・回復力の低下、一度疲れると元に戻るのに時間がかかる ・原因不明の痛み、こわばり
これらの症状は、単なる「疲れ」とは異なります。休息を取っても改善しない、根本的なエネルギー不足なのです。
なぜミトコンドリアの機能は低下するのか?
ミトコンドリアの機能が低下する原因は、一つではありません。現代の生活環境には、ミトコンドリアを傷つける要因がたくさん潜んでいます。
1. 慢性的な炎症
体内に慢性的な炎症があると、その炎症を抑えるために体のエネルギーが大量に消費されます。また、炎症によって産生される活性酸素が、ミトコンドリア自体を傷つけてしまいます。
腸内環境の悪化(リーキーガット症候群)によって引き起こされる慢性炎症は、ミトコンドリア機能低下の大きな原因の一つです。
2. 重金属や環境毒素の蓄積
水銀、鉛、カドミウムなどの有害重金属や、環境中の化学物質は、ミトコンドリアの働きを直接的に阻害します。
これらの有害物質は、食べ物、水、空気、歯科治療(アマルガム)など、日常生活の中で知らず知らずのうちに体内に蓄積されていきます。
特に、腸のバリア機能が低下している状態では、これらの有害物質が体内に吸収されやすくなり、ミトコンドリアへのダメージが蓄積されていきます。
3. 栄養素の不足
ミトコンドリアがエネルギーを作り出すためには、ビタミンB群、コエンザイムQ10、マグネシウム、鉄、亜鉛などの栄養素が必要不可欠です。
これらの栄養素が不足していると、ミトコンドリアは十分な量のエネルギーを作ることができません。
また、腸内環境が悪いと、食べ物から栄養素を十分に吸収できないため、栄養不足に陥りやすくなります。
4. 酸化ストレス
ストレス、睡眠不足、過度な運動、喫煙、紫外線などによって体内に活性酸素が増えすぎると、ミトコンドリアが傷つき、機能が低下します。
慢性疲労症候群とミトコンドリアの関係
近年の研究では、「慢性疲労症候群(ME/CFS)」の患者さんの多くに、ミトコンドリア機能の低下が見られることが分かってきました。
慢性疲労症候群は、原因不明の激しい疲労が6か月以上続く病態ですが、その背景には、ミトコンドリアのエネルギー産生能力の低下があると考えられています。
当院でも、長年の慢性疲労に悩んでおられる患者さんの検査を行うと、腸内環境の悪化、重金属の蓄積、栄養素の不足など、ミトコンドリア機能を低下させる複数の要因が重なっていることが多く見受けられます。
ミトコンドリア機能を回復させるためのアプローチ
ミトコンドリアの機能を回復させるには、機能低下を引き起こしている根本原因を一つひとつ解決していく必要があります。
1. 腸内環境を整える
腸内環境の悪化は、慢性炎症を引き起こし、栄養吸収を妨げ、有害物質の侵入を許します。まずは腸のバリア機能を修復し、腸内フローラのバランスを整えることが、ミトコンドリア機能回復の第一歩です。
2. 有害金属・毒素のデトックス
体内に蓄積した重金属や環境毒素を、適切な方法で排出していきます。ただし、デトックスを行う前に、腸内環境を整え、体の排出能力を高めておくことが重要です。
3. ミトコンドリアに必要な栄養素を補給する
ビタミンB群、コエンザイムQ10、マグネシウム、L-カルニチン、αリポ酸など、ミトコンドリアの働きをサポートする栄養素を、適切な量とバランスで補給します。
4. 酸化ストレスを軽減する
抗酸化作用のある栄養素(ビタミンC、ビタミンE、グルタチオンなど)を補給し、ストレス管理、十分な睡眠、適度な運動など、生活習慣の改善も並行して行います。
治療には時間がかかる、でも改善の道はある
ミトコンドリア機能の回復には、時間がかかります。
なぜなら、機能低下を引き起こしている原因は複数あり、それらを一つひとつ丁寧に改善していく必要があるからです。多くの場合、改善を実感できるまでに半年から1年以上の時間を要します。
しかし、根本原因にアプローチすることで、確実に体は変わっていきます。当院でも、長年の慢性疲労から回復された患者さんを数多く見てきました。
まとめ
慢性的な疲労は、単なる「疲れ」ではなく、体の中のエネルギー工場であるミトコンドリアの機能低下が関係している可能性があります。
もしあなたが、長年の原因不明の疲労に悩んでいるのであれば、ミトコンドリア機能という視点から、体の状態を見直してみてはいかがでしょうか。
一般的な健康診断では分からない、体の根本的な問題を見つけることが、回復への第一歩となります。
当院では、ミトコンドリア機能低下の原因を特定するための専門的な検査を行い、一人ひとりに合わせた治療プランを提案しています。一人で悩まず、まずは専門の医療機関に相談してみましょう。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。


