遺伝子が引き起こす頭痛のメカニズムとは?
偏頭痛の原因は、ストレス、寝不足や寝すぎ、女性ホルモンの変動、天候や気圧の変化、強い光、特定の食品(チョコレート、チーズ、赤ワインなど)など、多岐にわたります。
また、神経の過敏性や遺伝的要因も関わっており、三叉神経が刺激され、神経伝達物質が放出されることで脳の血管が拡張・炎症を起こすことがメカニズムとして考えられています。
しかし、ではどうして脳の血管が拡張し、炎症が起こるのかというとはっきりとした原因はよくわかっていません。?
実はその脳の炎症の原因として、「MTHFR遺伝子」の異常もその一つである可能性があることをご存知でしょうか?
この記事では、MTHFR遺伝子の基本的な役割から、なぜその異常が偏頭痛と関係するのか、そしてどのような対策が考えられるのかを、わかりやすく解説します。
MTHFR遺伝子って何?
MTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)は、私たちの体にとって非常に重要な酵素の一つです。この酵素は、食べ物から摂取した葉酸を、体で使える「活性型」の葉酸に変換する働きをしています。
例えるなら、MTHFR酵素は、葉酸という「材料」を、体内で神経伝達物質やDNAを作るための「完成品」に加工する「工場長」のような存在です。
なぜMTHFR遺伝子の異常が問題になるのか?
MTHFR遺伝子に変異(異常)があると、この「工場長」の働きが弱くなってしまいます。その結果、葉酸を効率よく活性型に変換できなくなり、以下のような問題が起こります。
- ホモシステインが溜まる: 活性型葉酸は、血液中のホモシステインという物質をメチオニンという別の物質に変換するのに不可欠です。MTHFRの働きが弱まると、この変換がうまくいかなくなり、血液中にホモシステインが過剰に蓄積してしまいます。
- 神経や血管への悪影響: ホモシステインが過剰になると、脳の血管に酸化ストレスを与えたり、神経に悪影響を及ぼしたりすることがわかっています。これが、血管の炎症や神経の過剰な興奮を引き起こし、偏頭痛の引き金になると考えられています。特に、目の前にチカチカした光が見えるなどの「前兆を伴う偏頭痛」との関連性が指摘されています。
MTHFR遺伝子の異常による頭痛は鑑別できる?
MTHFR遺伝子の異常による頭痛は、通常の頭痛とは少し違う特徴がある場合があります。
- ホモシステイン値が高い: 血液検査でホモシステインの数値が高い場合は、MTHFR遺伝子変異の影響が強く疑われます。
- 症状の傾向: 一般的な片頭痛の症状(ズキズキする痛み、光や音に敏感になる)に加え、**前兆(オーラ)**を伴いやすいとされています。
MTHFR遺伝子異常による頭痛の対策は?
MTHFR遺伝子に変異があるからといって、必ずしも偏頭痛になるわけではありません。大切なのは、遺伝子の特性を理解し、適切な対策を取ることです。
- 活性型葉酸の摂取: MTHFRの働きが弱くても、最初から活性型の葉酸を摂取することで、ホモシステインの代謝を助けることができます。一般的なサプリメントの葉酸は「不活性型」が多いので、「5-MTHF」という表示の「活性型葉酸」を選ぶことが重要です。
- ビタミンB群の摂取: ホモシステインの代謝には、葉酸だけでなくビタミンB6やビタミンB12も不可欠です。これらのビタミンをバランスよく摂取することで、ホモシステインの値を正常に保つ助けになります。
最後に
「遺伝子」と聞くと難しく感じられるかもしれませんが、MTHFR遺伝子異常は、体質の一つとして捉えることができます。ご自身の体質を知ることで、効果的な対策が見つかり、頭痛の軽減につながるかもしれません。もし、慢性的な頭痛にお悩みであれば、一度機能性医学について詳しい医師に相談し、血液検査などでホモシステイン値やMTHFR遺伝子について調べてみることをお勧めします。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。