「子宮頸がんワクチンを打ってから、朝起きられなくなって…」
「学校にも行けず、吐き気と頭痛が毎日続いています」
先日、このような症状で来院される方が受診されました。付けられた診断名は「起立性調節障害」。
しかし、その診断名の裏には、もっと深い問題が隠れていることが多いのです。
今回は、子宮頸がんワクチン接種後に体調を崩された高校3年生の患者さんとの診察から、原因不明の体調不良に悩む多くの方に知っていただきたい大切な視点についてお伝えします。
見えている症状は氷山の一角
患者さんを診察する時、私はよく「氷山」の例えを使ってお話しします。
海に浮かぶ氷山は、水面から見えている部分は全体のほんの一部で、大部分は水面下に隠れています。
- 水面上の氷山 = 今感じている「朝起きられない」「吐き気」「頭痛」といった症状
- 水面下の氷山 = 症状を引き起こしている、体に隠れた根本的な原因

普通の病院で行う採血やCTなどの検査は、この「水面上の氷山」を調べているようなものです。
だから、いくら検査をしても「異常なし」という結果になり、根本的な解決には至らないケースが多いのです。(決して、一般的な検査の重要性を否定しているのではありません。)
ワクチンを打って何の症状も出ない人と、いろいろと体調を崩す人とは、水面上を見れば何も変わりません。しかし、この土台の部分、つまり体の中の水面下を見ると、かなり違うのではないかと考えています。
今の医学ではどう説明されているのか
では、現在の医学では、このワクチン接種後の副反応(副作用)をどのように説明しているのでしょうか。
最新の研究が示す複数のメカニズム
最新研究では、ワクチン接種後の後遺症について、いくつかの可能性が指摘されています。
① アジュバントによる免疫活性化
最新の研究では、ワクチンに含まれる「アジュバント」という免疫増強剤が、一部の人で過剰な免疫反応を引き起こす可能性が指摘されています。
HPVワクチンのサーバリックスには「AS04」というアジュバントが、ガーダシルには「アルミニウムアジュバント」が使われています。これらは免疫反応を高めるために必要な成分ですが、体質によっては免疫系が過剰に活性化され、自己免疫的な反応を起こすことがあると考えられています。
② 自己抗体の産生
2025年に発表された研究では、**HPVワクチン接種後に甲状腺の自己抗体が検出される例が報告されています。特に、自己免疫性甲状腺炎(橋本病)や自己免疫性甲状腺機能低下症との関連が示唆されており、接種後に自律神経障害や内分泌系の問題が生じる可能性が指摘されています。
また、日本での研究では、神経系の自己抗体(NMDA型グルタミン酸受容体抗体、自律神経受容体抗体など)が一部の患者さんで検出されており、これが神経症状の原因となっている可能性が報告されています。
③ ASIA症候群(アジュバント誘発性自己免疫・炎症症候群)
近年、国際的に注目されているのが「ASIA症候群」という概念です。これは、ワクチンのアジュバントや他の免疫刺激物質によって引き起こされる自己免疫・炎症性の症候群で、遺伝的素因を持つ人に発症しやすいと考えられています。
2024年の研究では、HPVワクチン接種後にASIA症候群の症状(慢性疲労、自律神経障害、認知機能障害など)を呈する例が報告されており、その発症メカニズムとして、アジュバントによるCD4+ T細胞の過剰活性化が関係している可能性が示されています。
このように原因究明ががれることは、一人でも多くの患者さんが出ないようにするために重要なことです。
しかし、これだけでは説明できないことがある
ここで重要なのは、同じワクチンを打っても、症状が出る人と出ない人がいるという事実です。
最新の研究でも、これらのメカニズムが「なぜ一部の人にだけ起こるのか」という疑問には、まだ完全には答えられていません。
つまり、ワクチンの成分やそのメカニズムだけでは説明しきれない、個人の体質や体の土台の状態が大きく関係しているのではないかと考えられるのです。
水面下に隠れた「本当の原因」とは
実際に体調を崩している方を調べてみると、体の土台の部分がバランスを大きく崩している方が多く見受けられます。
具体的には、以下のような問題が見つかります。
① 腸内環境の悪化
腸内環境が悪化していたり、腸のバリア機能が低下していることで、本来なら体内に入るはずのない有害物質が血中に漏れ出してしまう状態(リーキーガット)になっている方が多く見られます。
② 体の解毒機能の低下
体内の解毒機能が低下し、さまざまな有害物質を十分に処理できなくなっています。
③ 重金属などの有害物質の蓄積
体内に、重金属やさまざまな化学物質が蓄積している方が多く見られます。重金属は体の免疫細胞に蓄積することで、免疫反応を大きく乱すことが知られています。
ワクチンは「きっかけ」であって「唯一の原因」ではない
ここで大切なことをお伝えしたいと思います。
もちろん、ワクチン接種後から体調が悪くなったのは事実です。それは否定しません。
しかし私は、問題はそれほど単純ではないのではないかと考えています。
おそらく、徐々に徐々に体調が崩れかけていたものが、ギリギリのところで何とかバランスを保っていた。それが、ワクチンを打つことで体内の免疫環境が大きく変化し、それが引き金となって一気に症状として表面化したのではないかと捉えています。
つまり、土台の部分がバランスを崩していたら、ワクチン接種がなくても、いずれ体調を崩していた可能性があるということです。
被害者の立場になると、どうしても「ワクチンを打ってしまったから」という後悔が足を引っ張り続けることになります。「あの時打たなければ」と思い続けてしまうのです。
しかし、問題はそれほど単純ではありません。たまたまその時にきっかけとなって症状が出現したのであり、その土台を整えていけば回復する可能性があるということです。
病名にこだわらない治療姿勢
今回の患者さんは、他の医療機関で「起立性調節障害」と診断されていました。しかし、正直なところ、起立性調節障害なのか、ワクチン後遺症なのかという病名は、水面上に出ている部分にどのような名札をつけるかという話に過ぎません。
もちろん、訴訟などの必要がある方にとっては病名は重要かもしれません。しかし、患者さんが体の土台のバランスを整えて元気に回復するという観点からは、病名自体はあまり意味を持ちません。
時折見られるのは、診断基準を満たさないために病名がつかず、「あなたはうつ病です」と診断されてしまうケースです。当てはまる診断がなければ、そのような扱いになってしまうこともあるのです。これは決して冗談ではなく、実際に起きていることです。
ですから私たちにとって大切なのは、診断名ではなく、氷山の下に隠れている部分がどうなっているかということです。それに対する治療を行うのであって、診断基準を満たすか否かは重要ではありません。病名がAだから、Bだからといって、治療が大きく変わるわけではないのです。
極端な話をすると、起立性調節障害の方も、例えばアトピー性皮膚炎の方も、実施する検査や治療はほぼ同じです。全く同じとは言いませんが、8割は共通しています。重要なのは土台の状態です。
そして、そのほぼ100%に腸内環境が関係しています。
「過去は変えられない」けれど「土台は整えられる」
今はすでにワクチンを接種してしまったわけで、過去を変えることはできません。
しかし、何ができるかというと、その土台の部分を整えることはできるのです。
そうすることによって、一度は症状が出現してしまったとしても、その土台が整っていけば、体調が回復していくことが期待できます。
実際に、ワクチン接種後やコロナ感染後に体調を崩し、慢性疲労症候群や起立性調節障害と診断された方を治療している例は複数あります。
しかし、治療を進めていくと、治療経過は、そのようなきっかけがなく症状が出現している方と変わりません。
つまり、適切な治療を行えば回復する可能性があるということです。
土台が整えば、再びワクチンを打っても大丈夫だった例も
診察の中で、患者さんのお母様からこのような質問がありました。
「もし治った時に、もう一回打っても大丈夫と言われたのですが…気持ち的には打つのは怖いです」
それに対して私はこのようにお答えしました。
「体に合っていないということが何を意味しているのか、そこを考える必要があります」
体の土台がバランスを崩している状態で接種したから、そのような症状が過剰に反応として出現したと考えられます。体の状態が整い、その要因がなくなった状態であれば、接種しても何も起こらないと考えられます。
実際にそのような例があります。ワクチン接種後で長期間寝たきりの状態だった方が、体調が回復してから、「それではもう今なら接種しても大丈夫でしょう」ということでワクチンを接種し、問題がなかったという例があります。
やはり、土台の部分が重要なのだと考えています。
まとめ
子宮頸がんワクチン接種後の体調不良は、とてもつらい経験です。
最新の研究では、アジュバントによる免疫活性化や自己抗体の産生、ASIA症候群など、いくつかのメカニズムが報告されています。しかし、同じワクチンを接種しても症状が出る人と出ない人がいるという事実は、ワクチンだけが問題ではなく、個人の体の土台の状態が大きく関係していることを示しています。
私の個人的な意見は、ワクチンは「きっかけ」になったと考えられます。しかし、それが唯一の原因ではないのではないでしょうか。
今回お話しした「氷山理論」が、長年の体調不良に悩む方々の希望の光となれば幸いです。過去は変えられません。しかし、体の土台は整えることができます。
※ 当院での治療をご希望の方は、小西統合医療内科のホームページをご覧ください
https://www.konishi-clinic.com
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。


