―「機能性低血糖症」と腸の深い関係―
「ランチの後に、どうしようもない眠気に襲われる」
「夕方になると集中力が切れて、甘いものが無性に食べたくなる」
「理由もなくイライラしたり、急に不安になることがある」
こうした日常的な不調を「疲れているから」「もう年だから」と片づけていませんか?
実はその背後に、「機能性低血糖症」と呼ばれる血糖コントロールの乱れが隠れていることがあります。
そして、その根本原因は意外にも「腸」にあるのです。
今回は、多くの方が悩まされているこの問題について、そのメカニズムと最初の対策ステップを解説します。
あなたの体で起こる「ジェットコースター血糖」とは
「低血糖」と聞くと、糖尿病治療薬の副作用を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし「機能性低血糖症」はそれとは異なり、糖尿病でない方にも起こり得る、食後の血糖値の乱高下を指します。
通常、食後の血糖は次のようなサイクルで調整されています。
- 血糖値の上昇:白米・パン・麺類・お菓子などの糖質を摂ると、血糖値が上がる。
- インスリンの分泌:膵臓がインスリンを分泌し、血糖を下げようとする。
- 血糖値の降下:インスリンの働きで血糖が下がり、一定範囲に保たれる。
本来、血糖の上昇カーブとインスリン分泌のカーブは精密にシンクロしています。
インスリンが「ちょうどよいタイミング」で「ちょうどよい量」だけ分泌されれば、血糖は安定します。
しかし、このシンクロが崩れると、インスリン分泌がわずかに遅れたり過剰になったりして、血糖が乱高下するようになります。
この「血糖の上昇とインスリン分泌のタイミングのずれ」によって、血糖が急激に上がったり下がったりするのです。
これこそが、食後の眠気やだるさ、集中力の低下といった不調の直接的な原因です。
なお、ここでいう「インスリンの過剰分泌」は、一過性のタイミングのずれによって起こる現象であり、
慢性的にインスリンが多く分泌される**「インスリン抵抗性」**とは異なるメカニズムです。
この点については、別の記事で詳しく解説します。
血糖値を乱す司令塔は「腸」にいる
では、なぜインスリンの分泌タイミングが狂ってしまうのでしょうか。
そのカギを握るのが、実は「腸」です。
腸は、糖質などの食べ物が入ってくると「インクレチン」というホルモンを分泌し、
「これから血糖が上がります。インスリンの準備をお願いします」と膵臓にサインを送ります。
このインクレチンの働きによって、血糖上昇とインスリン分泌がうまくシンクロしているのです。
ところが、腸内環境が乱れていると、このセンサー機能がうまく働かなくなります。
腸内細菌のバランスが崩れたり、腸粘膜に炎症が起こっていたりすると、
インクレチンの分泌やシグナル伝達が遅れたり、不正確になったりします。
その結果、インスリンの「タイミング」と「量」の制御が乱れ、
血糖値がジェットコースターのように上下してしまうのです。

今日からできる第一歩:食事の見直し
「もしかして自分も?」と思われた方は、まず日々の食習慣を振り返ってみましょう。
- 食事が早く、あまり噛まずに飲み込んでいる
- ご飯やパンなど、糖質から食べ始めることが多い
- 空腹時にお菓子やジュースを摂ることがある
- 便秘や下痢を繰り返している
これらに当てはまる方は、血糖コントロールの乱れだけでなく、腸内環境にも負担がかかっている可能性があります。
まずは、
👉 「野菜やタンパク質から先に食べ、糖質は後からゆっくり摂る」
という食べる順番を意識してみてください。
それだけでも、血糖とインスリンのリズムが整いやすくなり、
食後の眠気や倦怠感の軽減につながります。
おわりに:腸から見直すエネルギーの連鎖
今回は、「機能性低血糖症」と腸の関係、そして血糖とインスリン分泌のシンクロの重要性についてお話ししました。
この血糖の乱れを放置すると、体は常にストレス状態となり、やがて**「副腎疲労」**へと進行していくことがあります。
次回は、この「副腎疲労」とは何か、そして腸がどのように全身のエネルギーシステムを乱していくのかについて、さらに詳しく掘り下げていきます。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。


