― 根本治療を進めるための“戦略的ステロイド活用”という考え方 ―
「アトピーにステロイドを使うのは良いのか、悪いのか?」
このテーマは、長いあいだ議論が繰り返されてきました。
一般的にステロイド外用薬は対症療法と位置づけられ、根本的な解決にはならないと言われます。また、長期間・大量使用による副作用が懸念されることから、「脱ステロイド」を推奨する医療機関や専門家も存在します。
確かに、ステロイドは“その場しのぎ”の側面があり、漫然と使い続けることは推奨できません。しかし一方で、一時的に炎症を鎮めるという大きなメリットがあります。
このメリットを“適切な目的のために限定的に活かす”という視点は、しばしば見落とされがちです。
■ 根本的治療には、どうしても「揺り戻し」が起こりうる
当院では、アトピーの背景にある腸内環境、慢性炎症、毒素・有害金属の蓄積、バリア機能低下などの「根本要因」にアプローチする機能性医学的な治療を行っています。
しかし、根本治療にはひとつの特徴があります。
それは一時的に症状が悪化する場合があるということです。
具体的には……
① 腸内の悪玉菌やカビが死滅するときの反応
除菌・抗カビ治療を行うと、死滅した微生物が一時的に炎症反応を誘発することがあります。
② 蓄積していた毒素・有害金属を解毒する際の反応
デトックスの過程で、一過性に皮膚症状が強くなるケースがあります。
これらは治療が「効いている」サインとも言えますが、症状が悪化すると治療の継続が難しくなる患者さんもいます。
■ そのような局面でステロイドをどう使うのか?
この“揺り戻し”が強すぎると、根本治療そのものが進められなくなります。
そこで重要になるのが、目的を限定したステロイド使用です。
- 目的なく漫然と使う → ×
- 根本治療を継続するために、必要最小限で炎症を整える → ○
このような使い方は、一般的な「対症療法として抑え込む」使い方とはまったく意味が異なります。
ステロイドは“根本治療を邪魔する存在”ではなく、
根本治療を進めるための補助ツールとして位置づけることができます。
■ ステロイドは「悪」ではなく、使い方次第で治療の味方になる
ステロイドは強力な薬です。
だからこそ、目的もなく使うべきではありません。
しかし、必要な場面で、適切な量・期間・強さを選び、計画的に使うことで、
- 疲弊した皮膚を守る
- 不必要な苦痛を軽減する
- 根本治療を継続可能にする
といったメリットを得られます。
ステロイドを使うべきタイミングと、使うべきでないタイミング。
その両方を正しく見極めるのが、医療の役割です。

■ まとめ ― 「ステロイドか?脱ステか?」という二択から自由になる
アトピー治療は、白黒の二択で語れるほど単純ではありません。
- ステロイドは悪だから全面禁止
- 逆に、何も考えずに塗り続ける
どちらも極端です。
大切なのは、
ステロイドのメリットとデメリットを“目的に応じて”適切に使い分けること
そして、
アトピーという慢性疾患の根本要因にしっかりアプローチすること
です。
当院では、悩まされてきた炎症を一時的に落ち着かせながら、
同時に「なぜ炎症が起きているのか?」に丁寧に向き合い、
長期的に負担の少ない治療計画を設計しています。
ステロイドは悪ではありません。
ただの“選択肢のひとつ”です。
そして、正しく使えば、根本治療を前に進める大事な味方になり得ます。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。


