皆さんは「慢性炎症」という言葉をご存知でしょうか。近年の研究により、生活習慣病やがんといった現代病の多くに、この慢性炎症が深く関わっていることが明らかになってきました。今回は、さまざまな病気の根底にある慢性炎症と、その原因について詳しくお話ししたいと思います。
すべての病気は炎症から始まる
炎症と聞くと、怪我をしたときに患部が赤く腫れて痛む「急性炎症」を思い浮かべる方が多いでしょう。これは体を守るための正常な免疫反応です。しかし、この炎症が長期間続く「慢性炎症」は、体にさまざまな悪影響を及ぼします。
実は、私たちが経験するさまざまな不調や病気の本質は、この慢性炎症にあると言われています。近年では、個別の病気を縦割りで考えるのではなく、「炎症症候群」という包括的な観点から捉える考え方が注目されています。
動脈硬化と炎症のメカニズム
例えば、最も頻度の多い動脈硬化による病気を考えてみましょう。脳梗塞や心筋梗塞は、血管が詰まって起こる病気です。一般的には「悪玉コレステロール」が悪者とされていますが、実は悪玉コレステロール(LDLコレステロール)だけが高くても、動脈硬化は起こりません。
ここに活性酸素が関与することで、LDLコレステロールが酸化LDLとなり、初めて血管壁を傷つけます。血管壁に侵入した酸化LDLは、免疫細胞であるマクロファージによって異物とみなされ、炎症反応が起こります。こうして血管壁に沈着が生じ、プラークが形成されて血管が狭くなるのです。つまり、動脈硬化とは血管の慢性炎症なのです。

- 正常な血液中のLDLコレステロール
- 血管内皮の損傷(高血圧・喫煙・ストレスなどが原因)
- LDLの血管壁への侵入
- 活性酸素による酸化(LDL → 酸化LDL)
- 免疫細胞(マクロファージ)の集結
- 泡沫細胞への変化
- プラークの形成
- 動脈硬化の進行 → 心筋梗塞・脳梗塞のリスク
がんと慢性炎症
がんについても同様です。がんは多段階発がんといって、複数の段階を経て発症しますが、どの段階においても活性酸素や炎症が悪さをしています。
がん遺伝子やがん抑制遺伝子という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。これらの遺伝子のスイッチが入るかどうかは、遺伝子を取り巻く環境、つまり炎症の有無に大きく影響されます。慢性炎症がある環境では、がん遺伝子が発現しやすく、がん抑制遺伝子は働きにくくなるのです。
さらに、慢性炎症は自己免疫疾患(膠原病、リウマチ、1型糖尿病など)や、脳の神経変性疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病)とも深く関係していることがわかっています。
慢性炎症の多様な原因
それでは、慢性炎症はなぜ起こるのでしょうか。実は、その原因は一つではなく、さまざまな要因が複合的に関わっています。
1. 内臓脂肪型肥満 慢性炎症の最も重要な原因の一つです。過剰に蓄積した内臓脂肪組織からは、炎症性サイトカインという炎症を引き起こす物質が大量に分泌されます。これが血流に乗って全身に運ばれ、さまざまな臓器で炎症を引き起こします。
2. 酸化ストレス 体内で活性酸素が過剰に発生すると、細胞やDNAが傷つき、炎症が起こります。活性酸素は、ストレス、紫外線、大気汚染、喫煙、過度な運動などによって増加します。
3. 生活習慣の乱れ
- 喫煙: タバコに含まれる有害物質は、直接的に炎症反応を高めます
- 過度な飲酒: アルコールの代謝過程で活性酸素が発生します
- 運動不足: 適度な運動には抗炎症作用がありますが、運動不足は炎症を助長します
- 睡眠不足: 自律神経のバランスが乱れ、免疫機能が低下して炎症性物質が増加します
4. 慢性的なストレス 精神的ストレスは、自律神経やホルモンのバランスを乱し、免疫機能の低下を招きます。長期間のストレスは炎症性物質の増加につながります。
5. 食生活の問題 加工食品の過剰摂取、糖分の多い食事、トランス脂肪酸、酸化した油などは、体内の炎症を促進します。
6. 腸内環境の乱れとリーキーガット 腸内環境の悪化も慢性炎症の一因となります。腸管上皮は通常、タイトジャンクションという強固な結合で守られていますが、さまざまな要因でこれが緩むと、本来は体内に入るべきでない物質が血液中に漏れ出します。これが「リーキーガット(腸漏れ)」と呼ばれる状態です。
小麦に含まれる成分、腸内細菌叢の乱れ、慢性的なストレス、抗生物質の過剰使用などがリーキーガットの原因となり得ます。体内に侵入した未消化の食物タンパク質や有害物質は、免疫系を刺激して遅延型食物アレルギーや全身性の炎症を引き起こすことがあります。

7. 加齢 年齢を重ねると、免疫機能の変化、細胞の老化、抗酸化能力の低下などにより、慢性炎症が起こりやすくなります。
機能性医学という考え方
臨床の現場では、頭痛と耳鳴りと倦怠感と鼻炎を同時に訴える患者さんがいらっしゃいます。通常の医療では、頭痛は脳神経科、耳鳴りは耳鼻科、倦怠感は内科と、それぞれ別の診療科に振り分けられてしまいます。
しかし、これらの症状がすべて別々の原因で起こっているとは考えにくいのです。こうした症状を、慢性炎症という広い視点から捉え、根本的な原因にアプローチするのが機能性医学の考え方です。
慢性炎症への対策
究極の予防医学とは、体に炎症を起こさないように体のバランスを整えることです。そのためには、以下のような多面的なアプローチが必要です。
生活習慣の改善
- 適正体重の維持(特に内臓脂肪の削減)
- 禁煙
- 適度な運動習慣
- 質の良い睡眠
- ストレスマネジメント
食生活の見直し
- 抗炎症作用のある食品(オメガ3脂肪酸を含む魚、色とりどりの野菜や果物、発酵食品など)を積極的に摂る
- 加工食品、糖分、酸化した油を控える
- 食物繊維をしっかり摂る
腸内環境の改善
- プロバイオティクス(善玉菌)の摂取
- プレバイオティクス(善玉菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維)の摂取
- グルタミンなどの腸粘膜を修復する栄養素の補給
便秘があるということは、腸内環境が良くないサインです。便秘の自覚がなくても、2〜3日に1回しか排便がない方は、実は便秘の可能性があります。理想的には1日1〜2回の排便があることが望ましいと言えます。
抗酸化対策 ビタミンD、ビタミンE、亜鉛、セレンなどの抗酸化栄養素を適切に摂取することも重要です。
最後に
多くの慢性的な不調や病気の背景に、慢性炎症があることをご理解いただけたでしょうか。そして、その原因は単一ではなく、肥満、酸化ストレス、生活習慣、腸内環境など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
症状だけを抑える対症療法ではなく、これらの根本原因に包括的にアプローチすることで、本当の意味での健康を取り戻すことができます。
もし、長年悩んでいる慢性的な症状がある場合は、一度これらの観点から体を見直してみることをお勧めします。分子栄養学や機能性医学を専門とする医療機関で相談されると良いでしょう。
私たちの体は本来、素晴らしい自己治癒力を持っています。その力を最大限に引き出すために、まずは生活習慣の見直しから始め、慢性炎症を抑える取り組みを始めてみませんか。一つひとつは小さな変化でも、継続することで大きな健康改善につながります。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。


