「なんだか分からないけど、しんどい…」
「病院で検査をしても『異常なし』と言われる…」
「いくら寝ても疲れがとれない」
「体中が痛くて、起き上がるのもつらい」
「原因不明の体調不良がずっと続いている」

もしあなたがこのような症状に長年悩まされているなら、それは単なる「疲れ」ではないかもしれません。それは、「慢性疲労症候群(CFS)」と呼ばれる、生活の質を著しく低下させることがある病気の可能性があります。「慢性疲労症候群(CFS)」とは、単なる『疲れ』とは異なる、全身にわたる病気なのです
先日、10年前に慢性疲労症候群と診断されたという患者さんが診察に来られました。その方は、以下のような多様な症状に苦しんでいました。
• 激しい疲労感: ほとんど寝たきりに近い状態。
• 全身の痛み: 体のあちこちの筋肉が痛む。
• お腹の不調: 胃の痛み、逆流する感じ、お腹の張り、そしてひどい便秘。
いくつかの病院を巡り、内科で入院までしたものの、はっきりとした原因は分からずじまい。「年のせいかな」「気の持ちようだろうか」と、出口のないトンネルの中にいるような不安を抱えておられました。
今回の記事では、この患者さんとの対話の中から、原因不明の疲労に悩む多くの方に知っていただきたい大切な視点についてお伝えします。
見えている症状は氷山の一角
多くの病院では、血液検査やCTスキャンといった保険適用の検査を行い、目に見える異常を探します。しかし、慢性疲労症候群の場合、これらの検査では異常が見つからないことがほとんどです。
私は患者さんに、よく「氷山」の例えを使って説明します。

海に浮かぶ氷山は、水面から見えている部分は全体のほんの一部で、大部分は水面下に隠れています。
• 水面上の氷山 = 今感じている「しんどい」「だるい」といった症状
• 水面下の氷山 = 症状を引き起こしている、体に隠れた根本的な原因
一般的な病院で行う検査は、この「水面上の氷山」を調べているようなものです。だから、いくら検査をしても「異常なし」という結果になり、根本的な解決には至らないケースが多いのです。
水面下に隠れた「本当の原因」とは?
では、その水面下に隠れている原因とは何なのでしょうか?
私たちのクリニックでは、従来の検査では分からない「体の土台の部分」を調べる、特殊な検査を行います。これらは保険適用外で費用もかかりますが、長年の不調の原因を突き止めるための重要な手がかりとなります。
具体的には、以下のような体の機能に問題が隠れていることが少なくありません。
1 腸内環境の乱れ
私たちの体は、食べたものから栄養を吸収して作られています。その栄養吸収の要である「腸」の環境が悪化していると、いくら良いものを食べても必要な栄養が吸収できず、エネルギー不足に陥ってしまいます。
腸の問題が全身の疲労や痛みにつながるのでしょうか?その鍵を握るのが「腸管バリア機能障害(いわゆるリーキーガット)」と言われるものです。

以下に、機能性医学の観点から見た慢性炎症の機序について見ていくことにしましょう。
- 腸内環境の悪化と腸管バリア機能障害(いわゆるリーキーガット)
何らかの原因で腸内環境が悪化すると、腸の粘膜のバリア機能が壊れてしまいます。これがリーキーガットです。本来なら体内に入るはずのない未消化の食べ物や有害物質、細菌などが、この壊れたバリアをすり抜けて血中に漏れ出してしまいます。
- 全身に広がる「慢性炎症」
血中に侵入した異物を排除しようと、体中の免疫システムが常に働き続けることになります。これが、痛みや倦怠感の直接的な原因となる「慢性的な炎症」を引き起こします。
- 脳や神経への影響
この炎症は、脳や脊髄といった中枢神経にも影響を及ぼします。神経系に炎症が起こることで、慢性疲労症候群の最大の特徴である「激しい疲労感」や「思考力の低下(ブレインフォグ)」、そして全身の痛みが生じると考えられています。
近年では、慢性疲労症候群では、脳脊髄系に炎症が起こっていることが明らかにされ、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と言われることがありますが、結局は慢性炎症の結果脳脊髄に炎症が起こった状態のことを意味しています。機能性医学では、この「脳脊髄の慢性炎症」の原因を突き止め、整えていきましょうという考え方です。
- エネルギー工場の機能不全
私たちの細胞には、エネルギーを作り出す「ミトコンドリア」という”エンジン”があります。慢性的な炎症や、腸管バリア機能障害(いわゆるリーキーガット))によって体内に入ってきて蓄積した重金属などの有害物質は、このミトコンドリアの働きを著しく低下させます。エンジンがうまく回らなければ、エネルギーが生まれず、体が動かなくなるのは当然のことです。
標準的な医療では、体内の有害金属や環境中の毒素が体調不良の原因であるという考え方は全くありません。それは、保険診療の範囲では、体内の有害金属や環境毒素を測定する方法がないからです。検査方法を知らないから、それらが体調不良の原因にはならないということにはなりません。
このように、腸内環境の悪化(腸管バリア機能障害や腸管ディスバイオーシス)は、単なるお腹の不調にとどまらず、全身の炎症、神経系の機能不全、そしてエネルギー不足を引き起こし、結果として慢性疲労症候群という深刻な状態を招いてしまうのです。
症状を抑えるのではなく、根本原因にアプローチする
このように複雑に絡み合った状態を改善するためには、症状を一時的に抑える対症療法だけでは不十分です。なぜ腸内環境が悪くなったのか、体内に蓄積した有害物質が体にどんな影響を与えているのかを正確に把握し、その根本原因を一つひとつ丁寧に解決していく必要があります。
当院では、以下のような検査を通じて、体の状態を詳細に把握することから始めます。
- 唾液コルチゾール検査: ストレスへの抵抗力や副腎の疲労度を調べます。
- GI-MAP検査(便検査): 腸内細菌のバランス、腸管バリア機能障害(いわゆるリーキーガット)の有無や腸管の炎症の程度や免疫力などを詳細に分析します。
- 有機酸検査(尿検査): エネルギー工場であるミトコンドリアの働きや、体内の解毒能力の状態などを評価します。
- 毛髪有害金属検査: 体内に蓄積した有害金属はミトコンドリア機能を低下させたり、「身体という精密機械の歯車に目詰まりを起こす」原因となります。毛髪中の有害金属を測定することによって、体内の有害金属の蓄積量を推定します。
これらの検査結果をもとに、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます。それは、腸内環境を整えることから始まり、ミトコンドリアの機能を回復させ、最終的には体全体のシステムを正常に戻していく、長いけれど着実な道のりです。
これらの問題は、一般的な健康診断や病院の検査では見過ごされがちです。しかし、体の土台であるこれらの機能のバランスを整えることこそが、慢性的な疲労から抜け出すための鍵となります。
治療への道筋と現実的な課題
では、これらの特殊な検査で原因が見つかった場合、治療はどのように進むのでしょうか。
治療の基本は、治療目的の高品質なサプリメントを用いて、体のバランスを内側から整えていくことです。薬のように症状を一時的に抑えるのではなく、体全体の機能を根本から改善していくことを目指します。
ただし、この治療には時間と費用がかかるのが現実です。
- 検査費用:自由診療のため高額になる場合があります。実際の費用は症状や検査内容により異なります。
- 治療(サプリメント)費用:月に3万円~5万円程度が目安となり、改善には半年~1年以上かかることもあります。
当院における「慢性疲労症候群」の治療方針についての説明についてはこちらのサイトをご参照ください。
https://www.konishi-clinic.com/symptoms/chronic-fatigue.html
あきらめる前に、新しい選択肢を
原因不明の「しんどい」という症状は、ご本人にしか分からない、非常につらいものです。周りから理解されず、「怠けている」と思われてしまうことさえあります。
もし、あなたが今、いくつもの病院を巡っても解決策が見つからず、途方に暮れているのであれば、ぜひ「水面下の氷山」に目を向けるという視点を持ってみてください。
すぐに検査や治療に踏み切れなくても、「自分の体には、まだ調べていない根本原因が隠れているのかもしれない」と知るだけで、希望の光が見えてくるかもしれません。
この記事が、あなたの長いトンネルの出口を照らす、一つのきっかけになれば幸いです。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。