「自分だけが感じる周りの人の咳やくしゃみ…」 PATM(パトム)の症状に悩み、原因がわからず不安な日々を過ごしている方も多いのではないでしょうか。
前回はPATMと腸内環境との関係について触れました。今回は、体内に蓄積した有害金属、あるいは体の解毒機能との関係について説明します。
PATMの原因はまだ医学的に解明されていませんが、当院でこれまで1000人以上のPATMの患者さんを診察してきた経験から、腸内環境の悪化(腸管のバリア機能低下や悪玉菌・カンジダ菌の増殖)がPATMの症状と深く関連していると考えています。そして、体内に蓄積した重金属が、直接的にPATMを引き起こすというよりは、体内の解毒機能を停滞させることによって、PATMの原因物質が体内に蓄積しやすくするという形で、PATMの発症に間接的に関係している可能性が高いと考えています。
なぜ PATM が起こる?「重金属」と「解毒機能」の悪循環
私たちの体には、本来、有害な物質を外に排出する「解毒機能」が備わっています。しかし、このシステムがうまく働かなくなると、様々な不調が現れると考えられています。
当院での多くの臨床経験と機能性医学的知見に基づき、PATMの背景には次のようなメカニズムが関係しているのではないかと考えています。
- 腸のバリア機能の低下(リーキーガット) 何らかの原因で腸の粘膜が荒れると(リーキーガット)、本来は体内に吸収されないはずの有害な物質が血液中に入り込みやすくなります。その中には、食事などに含まれる微量な「重金属」だけでなく、環境汚染物質も含まれます。
- 重金属の蓄積による「解毒機能」の低下 リーキーガットが原因で、体内に重金属が少しずつ蓄積していくと、それが体の正常な機能を妨げ始めます。特に、有害物質を処理する「解毒システム」の働きを低下させてしまうのです。体内に「炎症」が起きていると、デトックス力は弱まります。これは、抗炎症・解毒の両方の作用を持つグルタチオンという解毒酵素が、炎症を抑えるために消費されるため、解毒に回せる量が減ってしまうからです。
- PATM 原因物質の排出が滞る 解毒機能が低下すると、PATMの原因となる可能性のある化学物質などを体外へうまく排出できなくなります。皮膚ガステストでは、PATM患者さんでトルエン・ベンゼン・キシレンなどの石油化学物質が一般よりも多く検出される例が報告されています。同様に、PATMの原因物質が体内に溜まり、皮膚から放出されることによってPATM特有の反応が引き起こされるのではないか、というのが現在の仮説です。
つまり、体内に蓄積した有害金属が、直接的にPATMの原因になっているというよりも、重金属が体内に蓄積した結果、体の解毒機能が低下することがPATMの原因物質の蓄積を促しているのではないかと考えています。
これはあくまで多くの患者さんを診てきた上での私の臨床的な推測ですが、この仮説に基づいた治療で、実際に多くの方の症状が改善しています。
症状改善の切り札?「キレーション治療」とは?
この「重金属」という根本原因にアプローチするのが「キレーション治療」です。キレーション治療とは、キレート剤という特殊な薬剤を使って、体内に溜まった有害な重金属と結合させ、尿と一緒に体外へ排出させる治療法です。
この治療を行うことで、解毒システムの目詰まりが解消され、体が本来持っている解毒機能を取り戻すことが期待できます。その結果、PATMの原因物質もスムーズに排出されるようになり、症状が改善する方がたくさんいらっしゃいます。
治療を始める前に知っておきたい大切なステップ
ただし、誰でもすぐにキレーション治療を始められるわけではありません。特にPATMの症状を持つ方は、そもそも重金属をうまく排出できない体質になっていることが多く、最初からキレート剤を飲んでも効果が出ないことがあります。また、いきなりキレーション治療だけを行うと、腸内フローラの乱れ、カンジダの増殖、栄養不足、毒素の再吸収などの合併症を起こすリスクがあるため、非常に危険です。
そのため、治療を始める前に、腸内環境を整え、腸管に悪玉菌やカビ(カンジダ菌など)がいる場合は除菌治療を行うなど、体内の炎症をコントロールする「前治療」をきっちり行うことが非常に重要です。これらの事前準備が、キレーション治療の効果を上げる上でも不可欠となります。
その後、患者さんがキレート剤に反応して、きちんと重金属を排出できるかどうかを確認する検査が必要になります。この「尿中重金属排泄試験」では、試験的に少量のキレート剤を服用し、その後の尿にどれくらいの重金属が出てくるかを測定します。この検査結果を見て、患者さんにキレーション治療が有効かどうかを判断し、本格的な治療へと進んでいくのです。
なお、この検査で有害金属が排泄されない場合でも、それが体内に重金属がないことを意味するわけではありません。体の解毒機能がうまく働いていないために排泄できない場合があるからです。
むしろ、PATMの患者さんの場合、最初の状態ではキレート剤で重金属が排泄できない方の方が多いです。その場合は、排泄できるようにデトックス機能を高める治療を併用して、重金属を排出させていきます。
治療によって解毒機能が改善すれば、それまで排泄できていなかった重金属が、排泄されるようになってきます。逆に、治療後に排泄されなくなった場合は、体内の有害金属がなくなったことを意味します。同じ「排泄されない」という結果でも、治療前と後では意味が全く異なるため注意が必要です。
まとめ
原因不明とされるPATMですが、「体内の重金属」と「解毒機能の低下」という視点からアプローチすることで、症状改善の道が開ける可能性があります。
もしあなたが長年PATMに悩んでいるのなら、まずは腸内環境を整える治療を行い、その後、「キレーション治療」という選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。まずは専門の医療機関で相談し、ご自身の体が治療に適しているかを検査することから始めてみましょう。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。