はじめに:なぜ、うちの子は生きづらいんだろう?
自閉症スペクトラム(ASD)の診断を受けたお子さんを持つ多くの保護者は、「脳の問題」や「遺伝の問題」と説明され、治療法がないとされることに戸惑いや不安を感じているかもしれません。
しかし、近年注目されている「機能性医学」のアプローチでは、脳に影響を与える根本的な原因(腸内環境、栄養状態、有害物質の蓄積など)を見つけ出し、それを改善することで、症状の変化が見られるケースが増えています。
今回紹介するのは、当院を受診された自閉症と診断された10歳の女の子のケースです。検査を通して明らかになった彼女の体内環境と、その背景にある問題について、検査データとともにご紹介します。
1. 腸内環境:炎症と「リーキーガット症候群」の連鎖
彼女の便と尿の検査結果から、腸内環境が著しく乱れていることが判明しました。
異常1:悪玉菌・真菌(カビ)の増殖
便と尿の検査から、彼女の腸内環境が著しく乱れていることが判明しました。
- 腸内の善玉菌(アッカーマンシア菌、バクテロイデス菌など)が著しく減少
→ 特にアッカーマンシア菌は、腸のバリア機能維持に重要です。

- 一方で、エンテロバクター属、レンサ球菌属、黄色ブドウ球菌といった日和見菌が悪玉化して増加。
- 尿中の有機酸検査では、酒石酸やアラビノース(カンジダ菌の毒素マーカー)が基準値を大きく超えて検出され、カンジダ菌の過剰増殖が確認されました。
→ アラビノースは、自閉症の症状との関連が示唆されている毒素です。

異常2:「アレルギー性炎症」と「腸の穴」
腸の炎症とバリア機能の破綻も確認されました。
- **好酸球活性化タンパク(EDN/EPX)**の高値:
→ 腸の粘膜でアレルギー性の炎症が起きていることを示唆。 - ゾヌリンの高値:
→ 腸のタイトジャンクションが緩み、「リーキーガット(腸漏れ症候群)」の状態にあることが示されました。
この状態では、腸内のカンジダ菌の毒素や未消化の食物が血中に漏れ出し、全身の炎症や脳機能への影響を引き起こすと考えられます。

2. 「有害重金属」の蓄積
最も深刻だったのは、毛髪ミネラル検査によって明らかになった有害重金属の蓄積でした。
- 鉛:基準値の約5倍と非常に高値
- 水銀:基準値の約3.5倍
- アルミニウム、ヒ素、ウランなども基準値を超えて高値
これらの重金属はすべて神経毒性を持ち、脳の炎症や神経伝達物質の働きを阻害するとされています。彼女の症状の大きな根本原因の一つであると考えられました。

10歳の小さな子どもにこれだけの有害金属が蓄積しているということはにわかには信じられないかもしれません。しかし、自閉症の原因の一つとして、水銀をはじめとする有害金属が関係していることがわかっています。
なぜ、これほど重金属が蓄積していたのか?
本来、私たちの体には、体内の有害物質を排出する「解毒機能」が備わっています。しかし、この機能がうまく働かないと、有害物質は体内に蓄積してしまいます。
今回の検査では、解毒に関与するMTHFR遺伝子(C677T)にヘテロ型変異が確認されました(TYPE2)。
この遺伝的変異により、生まれつき解毒能力が20~30%低下している可能性があり、毒素を排出しにくい「体質的要因」があったと考えられます。

診断のまとめと治療計画
この患者さんには、以下のような複合的な問題が確認されました。
- 腸内ディスバイオーシス(腸内細菌の乱れ)とカンジダ菌の過剰増殖
- リーキーガットおよびアレルギー性腸炎
- 遺伝的要因による重度の有害重金属の蓄積
治療計画の概要
治療は体への負担を最小限に抑えながら、段階的かつ慎重に行います。
第1段階:腸内環境の修復
- グルタミン:リーキーガットの修復に重要。興奮症状に注意しつつ、ごく少量から開始。
- 善玉菌サプリメント:腸内フローラの正常化を目指して導入。
※一般的には自閉症の子どもにグルタミンは「禁忌」とされていますが、当院では慎重に投与することにより腸内環境の改善が見られるケースがあります。
第2段階以降:除菌と解毒
- 腸内環境が安定した後、カンジダ菌や悪玉菌の除菌治療を行います。
- その後、キレーション療法(解毒治療)によって、有害重金属を体外に排出し、根本的な体質改善を目指します。
最後に
自閉症は、一般的な医療では「治らない」とされることが多いですが、その根本原因が後天的なものであれば、適切な介入によって改善する可能性があります。
実際、海外では機能性医学に基づいた治療により症状が改善した例が多く報告されています。今回のように、詳細な検査を通じて体の内側を知ることで、今まで見えていなかった原因が明らかになることがあります。
お子さんの症状に悩んでいる方は、まずは体の状態を把握するための検査を検討してみてください。一歩踏み出すことで、お子さんの未来が変わるかもしれません。
※注意事項:
このような治療は、標準医療では対応が難しいケースにおいて希望となる手段ですが、専門知識と経験のある医師のもとで行う必要があります。
SNSなどで資格のない人がサプリメントを推奨している例も見られますが、こうした行為は非常に危険であり、強く注意が必要です。
執筆者プロフィール

医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。